プロローグ

2019.12月                 石川詩央里2020.1.29

今年の年末は、思ったより慌ただしくなく、拍子抜けしている。今年も1年、今の職場に就いてから、5年半の月日がたつ。
私は、いつも年末にドタバタとしたり、人生の転機が訪れて、運命に翻弄されたりするのだが、今のところ、そんな気配もなく、外気も秋のような穏やかな陽気が続いている。

今日は、参加している同人誌の発行が思わぬアクシデントで遅れ、参加費の振り込みに郵便局へと向かった。
洗足池商店街の中にある、小さな郵便局。今のすみかに移ってからの、お付き合いだ。郵便局の手前に、昔、化粧品屋があったことを、いつも思い出す。お店のお姉さん、今頃どうしているかしら。閉店すると聞いて、慌てて、敏感肌用の口紅を買いに行ったのが、最後だった。あれも年末だった。あれから、どれだけの月日が経ったというのだろう。そこのお店は、毎月、商品案内の手紙を送ってくれた。開けもしないのを、知ってか知らずか、「冬は乾燥に注意して、保湿を充分しましょう!」などと、封筒に、手書きでメッセージを付けてくれた。口紅。また、買わないといけないけれど、合うのがなかなか見つからない。
無事に振り込みが終わり、銀行にも寄れた。あとは、年末の用事というかは、掃除と、冬休み用の買い物だ。今年は、全てを一気にやることはなく、11月中に、キッチンとお風呂は終わっている。冬休みに入ってから、雑誌類をまとめるのと、ざっと拭き掃除と、水回りの掃除くらいか。一人暮らしなので、見えるところしかしないし、広くないので、その気になれば、二日あれば十分だろう。
今の職場は、今のところ、私には合っている。慣れるまでは大変だったけれど。実は、ここに来る前、私は一文無しだった。今の院長は、知ってか知らずか、雇い続けていてくれている。周りのスタッフさんも良い人たちで結構支えられている。私の実力がないので、やっとこさではあるけれど、なんとか続けてこれた。昔から、何故か、私は人に恵まれている。

郵便局から帰ってくると、親戚の叔父から喪中はがきが届いていた。叔父の奥さんのお母さんが夏に亡くなっていたそうで、驚いた。最後に会ったのは、いつだったか。お墓参りの時に、何度か、叔父の家にお世話になっていたけれど、お婆さんは、自室の床に臥せっていることが多かった。以前、目の手術を受けたいけれど、どう思う?と相談を受けた。看護師の私は、かなり昔に網膜剥離の手術を受けているとも聞いて、90を超えているおばあさんに、難しい手術になるし、入院生活も、あまりお勧めは出来ない、とアドバイスをした。今思うと、手術を受けていたら・・・と、胸が苦しくなる。それ以外にも、叔父家族には、いろいろ迷惑をかけているので、母に連絡をし、連名でお菓子を贈ってもらうことになった。
おばあさんの、目の手術の話もそうだけれど、私は普段から、相手の気持ちを考えたつもりが、空回りすることが多いような気がする。良くも悪くも正直、以前母にいわれた意味が解ってきた。いつからだろう・・・人を気遣えなくなった。会話も下手、看護師なのに・・・などと考えて、やっぱり落ち込む。

クリスマス、今年はなんとなくもやもやしている。一人で過ごすのは、例年通りだけど、あまり、はしゃぐ気にもなれず、一応、コンビニでケーキとチキンを注文した。毎年、この時期は太るので、年明け、落ち着いたら、またダイエット開始しよう。体力落ちない程度に。などと考えながら、ツイッターに画像を載せ、いいねして貰うと、少し、癒される。
2~3年前までは、毎年、近所のケーキ屋さんの、ホールケーキを注文して、投稿していた。今年は、コンビニの一番安いケーキなので、見栄えはイマイチ、ケーキ屋さんとは違うなあとか、味は充分OKなどと考えながら食べていると、ツイッターのフォロワーさんの中の一人の女の子から、
「可愛いケーキですね、どこで買ったのですか?」
とメッセージが届いた。コンビニで買いましたと返信すると、買いに行きます!とも返信があり、自分が恥ずかしくなった。
やっぱり、最近の私はひねくれているなあ。と反省する。