深海4

      


 婦長との、面談。
 午後の仕事が一区切り着いたところで、声をかけられる。突然言われたので、緊張どころではない。あわててカンファレンスルームへ行く。
 婦長と二人きりになる。何でもいいから言ってといわれ、私は普段思っていることを話した。
 仕事上での、スムーズに行かない点。人間関係。
 考えをまとめる時間も無かったので、素直に話してしまう。婦長は落ち着いた様子で話を聞いてくれ、建設的な意見をくれた。
 そして、どんなことでも、早めに声を掛けて欲しいといわれる。
 十分程度だったが、今までの迷いが、いい方向へ向いたような、婦長が、行く先を指差してくれたように感じられる。
 私は、単純だ。黒いものは黒く、白いものは白いと、誰かに言われると、そのまま受け止めてしまう。
 落ち着いて、いい雰囲気で、いいことを言われると、その気になってしまう。
 自分が無いのかもしれない。良くも悪くも。
 でも、沈んで、ぐるぐるからまわりしていてはいけない。寄り道しながらでも、軌道修正していかなくては、先になんて、進めないんじゃないか、とも思う。
 気分良く、残りの仕事をし、帰宅する。こういう日も、あるんだわ。仕事って、嫌なことばかりじゃないのかも。食後の甘いものを食べながら、日本茶をすする。
 頑張ってみようかな。そう思えた。

 休日なのに、曇っている。
 雨じゃないならと、気を取り直す。池へ行くつもりなのだ。
 もう、日に日に寒くなってきている。公園で、ベスポジが空いていたら、池と紅葉を眺めたい。そう思っている。
 暖かい格好。私のそれは、秋だけど、真冬の格好だ。だって、寒いの嫌だし。一人で苦笑する。  
 普段、病院への行く道々で、桜並木の紅葉は楽しんでいる。朝からいい景色の中を歩くと、気持ちがよい。
 公園は、どんな景色なのだろう。そんなことを考えながら、マンションを出る。駅前に住んでいるので、すぐ、歩道橋をわたる。池が、池の周りが、美しい。秋は楽しい。雨は降っていない。寒いんじゃないかと思うのだが、池にはボートが何艘も浮いている。
 いつも通りの時計回りで、池の周りを歩く。足元には、色とりどりの落ち葉が絨毯になっている。
 あいにく、ベンチはすっかり埋まっている。仕方ないよね。そのまま歩き続ける。
 神社の横を通り、焼き芋屋さんの前を通り過ぎ、公園に出る。子供たちも楽しそうだ。あちこちで、カメラ片手に写真を撮っている。皆、楽しんでいる。
 私は、人の笑った顔が好きだ。私自身は、笑顔がぎこちないのだけど。今日は自然とほほが緩んでいる。
 もったいないくらいの景色。私は、この町の住人なのだ。いいところに住んでいるなと、しみじみ思う。
 

 
 
                               了