網膜色素変性症は、網膜の毛細血管が萎縮し網膜の細胞が徐々に機能を失っていく疾患で、暗いところで見にくい(夜盲)、つまづきやすい・ものにぶつかりやすい(視野狭窄)などの症状で発症することの多い疾患です。
世界中に300万人、わが国にも5万人の患者がいると言われています。
遺伝子の異常が原因といわれ、疾患の原因となる遺伝子の変異もいくつか発見されていますが、はっきりしないケース(弧発例)も50%ほどあります。
中には失明に至る場合もありますが、病状の進行はゆっくりですので、一生視機能を使った生活が可能なことも少なくありません。
現在のところ科学的に立証されている有効な治療手段はありませんが、有効な治療手段を確立するために世界中で最も精力的に研究が行われている疾患の一つでもあります。
暗いところが見えにくい場合は懐中電灯を利用する、逆にまぶしくて見にくい場合には一種のサングラスである遮光眼鏡を利用する、文字の読み書きが不自由になってきたら虫眼鏡や拡大読書器という補助具を利用することなどの、不都合に対する対策を講じることで日常生活や学習、仕事の多くは継続が可能です。
「一気に視覚障害が悪化するような疾患の場合」や進行は遅い疾患であっても「ずっと我慢していて我慢できなくなってから急遽対応する」のは本人が大変です。本症の進行(症状の変化)はゆっくりですから、対応も状況にあわせて少しずつ行うことができます。「ちょっと困ってきたな」というくらいの頃から準備や対応を開始すれば、ゆっくり一段ずつステップアップすることができますので、症状がかなり進行した状態になっても無理なく対応できます。
盲学校や福祉の窓口だけでなく、最近は、眼科などの医療機関でも、見えにくさに対する対応についての指導・助言をしてくれる施設が増えてきましたので、必要だと感じたら相談してください。
黄斑変性症といわれるものの中にも多くの種類があります。加齢黄斑変性症は、アメリカなど欧米先進国の成人(特に50歳以上)の失明原因の1位であり、近年はわが国でも増加してきている疾患です。
黄斑変性症は、網膜の中心部(黄斑部:ものを鮮明に見る場所)が傷むために「真ん中がゆがむ、見えない」という症状を来たす疾患です。
加齢以外の原因はまだ明らかではありませんが、喫煙は危険因子のひとつとされています。
レーザー光凝固術、黄斑移動術など多くの治療が試みられてきていますが、障害された視機能を改善させる治療法は残念ながらまだありません。
光線力学的療法(PDT: photodynamic therapy)は、治療による視機能低下を最小限にして、視機能の温存を図る最も新しい治療法です。
光線力学的療法によっても、進行した視機能障害の改善は困難ですが、逆に初期で発見し、治療ができれば視機能の温存が可能です。
軽度でも疑わしい自覚症状がある場合には早期に専門医の診断を受け、必要な場合は早期に治療を受けましょう。
進行してしまった加齢黄斑変性症の視覚障害にいまのところ有効な改善手段はありませんが、早期に発見し、早期に治療を行うことで一生を通して良好な視機能を維持していくことが可能です。
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