11001番目の守護天使〜シーダ

天と地
空と海
神と人
そして
人と人とをつなぐもの

「本当に綺麗なの。こんなに綺麗な人が、目の前にちゃんと存在して、私と同じ空気を吸って、歩いたり喋ったりするんだって事が信じられないくらい。まるで夢の王子様みたいなの」
その大きな瞳はより一層に大きく、零れ落ちそうな程に見開かれている。紅潮した頬と瞳の輝きとで、己の中から吹き出しそうに詰め込まれた興奮と好奇心と確かな憧れとを示し、息急き切って駆けてきた少女の第一声がこれであった。
王への目通りを願う人々が列を成す午後。作物の出来高や子供の罹る流行り病といった、各村に常在する役人の持ち込む報告や訴えに、常の如く耳を傾けていたタリス王の傍らには、愛娘であると同時に世継ぎの姫である王女が座している。つい先だっての誕生式で12才になった王女は少しずつ、こうして公的な場へも顔を見せるようになった。大陸での貴族社会の慣例に照らせば、一人前の貴婦人と認められるのは14才からなのだが、次代の女王となる事が既に決定している少女に対して、早いうちから己の立場を明確に把握させた方がよい、という王の意向によるものである。
「王女だけでも、大陸の何処の宮廷に出して恥ずかしくない貴婦人に育てたい」という王の願いは、他国の宮廷から殆ど無視されているも同然の新興国(タリス)の現状を考えれば、痛いほどによく判る。何と言っても王女は大きな瞳の愛らしい、一般的な美女ではないにせよ、充分に可愛らしい少女なのだから。
その王女は今、胴をぴったりと帯で閉め、柔らかそうな裾をたっぷりと引く、殆ど白に近い鴇色のドレスに包まれて、時折窮屈そうに身動ぎしながらもおとなしく座っている。がしかし、詩の朗読も刺繍も大嫌い、常日頃から男の子のような恰好で城の世話人の少年達と泥だらけになって遊び、オグマを相手に剣を振り回すのが大好き、という多少伸びやかに育ち過ぎた少女には、これは結構な苦行なのかも知れない。手に持っていた…持たされていた…扇を開いては畳む仕種が、だんだん乱暴になってきた。かなりいらいらが募ってきたらしい。…もうそろそろ、何か口実をつけて少女を連れ出した方がいいかも知れないと、二人の背後に控えていたオグマがそう思い始めた頃、その客の来訪が告げられたのだった。
王の前で膝を着いた伝令は、見るからに困惑した様子で語る。
他国人らしい者達が王への会見を求めている事。身の証しを立てるよう、要求したところ、それは王当人に対してでなければできない、と言われた事。常のようにそれを撥ね付けてしまうには、その身なりにそぐわぬ、品すら感じられる堂々とした態度が気になる事。
伝令の言に呆れたように口々に、家臣たちが「そのような者は追い出してしまえ」と言い募る中、王女の瞳は急に明るく輝き出していた。好奇心を刺激されているのだ。
生まれてこの方タリスを出た事のない王女は、オグマ以外の他国人を見た事がない。王女が一時なりと退屈を紛らわす事ができるのならそれは結構なのだが、王自身はこれを一体どうするつもりなのだろうか。
暫く考えていた王は、その客を広間へと通すように命じた。途端に反対意見が渦巻きかけた広間内だったが、王が視線を一巡させるだけで家臣は皆一様に口を噤む。
タリスは元々、細々とした農業と漁業、そして海賊業とで生計を立ててきた小さな島に過ぎなかった。それをアカネイア大陸の7番目の王国として認められるまでにしたのは、元は小さな持ち船で大陸を巡る商人だったという彼等の国王だ。他国に根差した商人ギルドや地方辺境を守る小貴族や兵士達と密接な関わりを持つ国王自身の人脈と商才とが、これ程の短期間でタリスという国を富ませ、民人に多大な恩恵をもたらした。それは他国から「成り上がり」と見下される一因でもあったのだが、少なくとも王はタリスの民の絶対の信頼を勝ち得ていた。その王の決定に異を唱える者はいない。その決定に間違いなど有り得ないのだから。
周囲が静まったまま、暫くの時が過ぎる。再び王女が退屈し出した頃、戻って来た伝令が客の入室を告げた。一斉にそこにある全ての視線が伝令の後ろに立っている人物へと向けられ、彼を確認したと同時に、密やかなざわめきが洩らされる。
大陸のごく一般的なものより、多少粗末な平服姿の青年だった。それでも真っ直ぐに背を伸ばされた姿勢の良さ、その堂々とした物腰は、なるほど確かに身なりにそぐわない。
その身ごなし、足運びから察するに、かなり剣の鍛練を積んでいるらしい。それも正式な剣技だ。自己流剣の傭兵などでは有り得ない。多分、軍人か騎士。
暗灰色の髪をした青年は物怖じもせず国王の前へと進み出て、広間の中央よりも少し前より辺りの位置に片膝をつくと腰を折った。床を見つめたまま右手で軽く拳を作り、軽く胸元に引き寄せる。その手がマントの裾を摘み上げていない事が不思議なほどに流麗な仕種は、今まで見た事がなかったにせよ、この場の誰にでも判っただろう。これは宮廷儀礼に則った騎士の礼だ。まだ20歳もそこそこの新米騎士のようであるのに、この気品、落ち着き。これは大陸でも名のある騎士団の者に違いない。
大陸でも5本の指に入るのは、5色の騎士団。白騎士はマケドニアの天空騎士団。赤騎士とも呼ばれるマケドニア竜騎士団。勇猛さをもってなるグルニア黒騎士団。緑の騎士はオレルアン王弟率いる狼騎士団。そして、青の騎士。自らを『聖堂騎士団(テンプル・ナイツ)』と称するアリティア宮廷騎士団。彼等の『聖堂』とはアカネイアならぬアリティア王家のみなのだと言う。他国の宮廷や聖教団からは異端視すらされる、異色の騎士団だ。この五つの騎士団を筆頭に、各国の幾つもの騎士団が綺羅星のごとく立ち並ぶ。
彼は何処の騎士団の者なのだろう。考えるともなしに脳裏を過ぎった疑問と情報は、オグマの中で検証される前に霧散した。青年が顔を上げると、表情一つ動かすことなく、広間中によく響く声で滔々と話し始めたからだ。
「初めてお目に掛かる御前にこのような姿のまま進み出る事、お許し願います。こたび、我等は縁あって、この海の国へと流れ来たりし者にて。貴国の民人の暖かき心に触れ、これも陛下のご厚情の賜物であろうかと、主従共々、感服致しました次第でございます。つきましては我が主、是非とも御挨拶方々お礼の言葉なりと述べさせていただきたいと申しておりますので、何卒、我が主へ拝謁の栄誉を賜らんことを、重ねてお願い申し上げます」
王は顎に添えられた指で、その殆どが白く変わった髭を撫でながら、目を眇めた。
「…貴殿、わしに直接、身の証しを立てる、と言われたと聞き及んでおるが?それともそれは、御主君の事であるのかな?」
「預かってきております。これにより、我が主と我等、双方の身の証し立てになろうかと…」
青年騎士はその懐から何か小さな物を取り出し、己を案内して来た伝令に目線で促すと、伝令は慌てて騎士の前へとまろび出た。渡された物を慎重に捧げ持ち、王へと届ける。それを摘み上げ、しかし王は少し戸惑ったような声を上げた。
「指輪か?…しかし、これが一体どういう…」
ふと何かに思い当たったのか、王の顔色がすっと白くなった。
「『国を一つ作られた陛下の、他に並ぶものなき御英断を信ずる』との、我が主よりの伝言でございます」
王を見つめる騎士の瞳から儀礼の幕を透かして、挑戦的な光が洩れている。それを確かに見て取って、王は先程受けた衝撃から己を無理やり立ち直らせるように、玉座の中で座り直した後、改めて姿勢を崩して皮肉げに笑った。
「……会おう。客人をここへ通せ。そしてこの部屋から、わし以外の者は全て退出せよ。わしがいいと言うまで、誰も入れるな。…小姓?護衛?…何を言うておる。わしは『全て』と言わなんだか?シーダ。お前もだ。……幾らねだっても、これは聞けぬ。オグマ、シーダを連れて行け。くれぐれもこの跳ねっ返り娘から目を離すでないぞ!」
「こんなところにいたの。捜したのよ、オグマ」
オグマが目を瞬くと木洩れ日の下、少女が彼に覆い被さるようにして覗き込んでいた。相変わらず少年のような格好をした、しかしもう誰が見ても少年には見えないタリスの王女は、悪戯っぽく笑う。
「どうしたの?ぼおっとして。まだ寝てるの?…マルス様とのお話はもう終わったんでしょ?」
「…寝てはいませんよ。2年前、彼等が初めてタリスに来た時の事を思い出していたんです」
あれは2年も前の事なのか。父王の元へと訪れた客人を覗き見る、という甚だ姫君に相応しからぬ少女の行為をたしなめながらも、『王子様』という、如何にも女の子らしい、しかし己の身分も忘れきったような表現に苦笑したものだったが、なるほど、確かに『王子様』であった訳である。
ドルーア戦役の三英雄を祖とする大陸の華、三貴王国の一。〈神剣王国〉とも呼び称されるアリティアの王太子。
オグマは草いきれを思い切り吸い込んで、寝転がったまま大きく伸びをすると、腹筋だけで勢いよく半身を起こした。乱れて落ち掛かった前髪を片手で乱暴に掻き揚げる。改めてシーダに視線を戻すと、彼女が不思議そうな顔をしているのが映り、苦笑しながら付け加える。
「…2年間、あれからずっとタリスに滞在していた事すら、知りませんでしたからね。今回、姫の『王子様』にようやっとお会いできた訳です」
2年前と言えば、大陸の情勢が危険なまでに悪化し、オグマが情報収集の任に就いてガルダで活動するようになり始めた頃だ。たまにタリスに帰ってもシーダを見掛けないと思ったら、である。溜息混じりのオグマの言葉に、シーダの眉が八の字に下がる。
「ごめんなさい、黙ってて。だけどお父様に『絶対誰にも言ってはいけない』って言われてたの。本当は私も知っちゃいけなかったんだけど、勝手にシフェラで砦まで押し掛けちゃって…」
有翼馬の背に跨がった豆台風の様子が目に映るようだ。アリティアの御客人達も、さぞかし驚いた事だろう。堪え切れない笑いが洩れる。ほのかに潮の香を含んだ風が、オグマの金の髪をなぶって通り過ぎていった。
眼下に臨むガルダの港は、まるで積木細工を組み合わせたかのように白ちゃけて、ごみごみとして見える。古今東西を問わず、金や権力を持った者は、高い所に己の居場所を作りたがるというが、ここガルダの支配階級も御他聞に洩れずであった訳だ。
ガルダの海賊を殲滅して後、滞在用にとアリティアの騎士達に明け渡された総督府は小高い丘の上にあった。世界を掌の中に閉じ込めたくなる、という支配者の心境はオグマには判らなかったが、新緑の匂いのする寝床は、何よりも有り難い。戦いの合間の一時は、平安の大切さをしみじみと噛み締める時間でもあるのだ。
彼女の為にこそ日々平安であってほしいと願う、オグマの唯一人の少女は、オグマの台詞に頬を紅潮させて、少し恥ずかしげに、大いに誇らしげに笑う。
「だけど、とっても素敵な人でしょう?」
主語はアリティアの王子。それはよく判っていたが、オグマは少々複雑な顔をした。『素敵な人』とは、非常に受けとり方の難しい表現だ。
確かに、思わず相手に息を飲ませてしまうような、印象的な少年ではある。外見だけならば、その白く優しげな風貌は確かに美しいと言えない事もないだろうが、それでも『信じられない位』という訳ではない。役者や色子といった職業の者の中には、彼より美しい少年もいるだろう。だが、それだけではない、何か不思議なオーラのようなものが、目の前の王子にはあった。
ひどく現実感のない。それこそ、物語の中から抜け出したような、纏う空気さえも他とは違うような不思議な透明感。それこそが彼を『夢の王子様』に見せてい、誰よりも『綺麗』だ、という印象を与えもしている部分なのだろう。
これが『青い髪の王太子』、そして『アンリの子』と呼ばれたアリティアの姉弟の片割れかと、赤い髪の騎士を伴って現れた王子を、失礼にならない程度にさりげなく、しかし注意深く観察したのだが、まさか相手がああいった対応に出ようとは。
オグマは先程の会見の席での王子を思い出す。顔を合わせるやいなや、合流してからこっちずっとバタバタとしていて、正式な対面の遅れた事を詫びながら自己紹介をし、人好きのする笑顔を傭兵(オグマ)に向けた王子。オグマに「会えて嬉しい」と言葉だけでなく、表情全体で示した王子は、まるっきり無邪気な子供のように見えた。その様子に半ば唖然としたまま、つい差し延べられた手を握り返してしまったが、あれはちょっとまずかったかも知れない。何といっても相手は王族で、彼を神聖視しているだろう…アリティアの王子についているのなら『聖堂騎士団』の騎士だろう…人間の目の前だったし。
無駄に敵を作りたくはない。ただでさえ今後、ドルーア相手に分の悪い戦いを強いられる事になるのだから。…しかし、あの王子は一体なんなのだろう。見る度毎に印象が違う。
初めは、彼を捜したシーダ姫が一人で貧民窟へと入り込んだ折だった。諜報活動中のオグマにとって目立つような事は一切御法度だったが、それでも彼女が安全な場所に辿り着くまでは見守るつもりで付かず離れず後を付け、何食わぬ顔で彼女等の宿でもある酒場の入口を潜った。その時、少年はそこにいたのだ。
頭に布を巻き、草原の民の衣装を纏った姿は、ドルーアとオレルアンの対立関係が激化する現在、ここガルダで目のする事は少なくなったが、それでも珍しいという程ではない。なのに何故か人目を引いた。…草原の民らしからぬ白い肌の所為だろうか。それとも、ゆったりとした長衣が彼の線の細さを強調してしまっているからか?
その後、すぐに部屋へと引き上げていったので、オグマもほっとしたものだったが…何もしていないのにあれ程目立たれては堪ったものではない…、この時の少年に対する印象は「少女のように頼りなげな」であった。
二度目は、海賊との戦闘の中だった。周囲を騎士達が固めてはいたが、唇を固く引き結び、自らも敵の血に濡れた小剣を引っ提げたその様は、とても「守られて然るべき姫君」には見えなかった。シーダ姫より幾つも上な訳ではない。それこそ、幼いと思えるほどに年若いはずだ。だけどあの時の少年は、共にいた若い騎士達と並べても遜色のない、落ち着いた青年に見えた。
そして、今回の三度目があれである。
強い者。聡いもの。器用な者。美しい者。
最下層に位置する貧民がそこから這い上がるには、人より頭抜けて秀でたものが必要だ。長い間『剣闘』という、裏社会に属する場所で生きてきたオグマには、そういった人々はごく近い存在だったし、彼も同じようにそうやって這い上がってきた。場数を踏んだ分だけ、人を見る目にも自信がある。しかし、あの王子は…。
普通の少年には到底持ち得ない、変に老成した、達観したような落ち着きと雰囲気。そして、人懐っこい子供そのものの仕種と表情。
あの王子は、人を落ち着かない気分にさせる。彼は今まで自分の思っていたような人物ではなかったのかもしれない、と一瞬毎に思わせる。
だがこの先、状況次第で幾らでも化けそうで、興味深くはある。ずっと側で見ていきたいと思わせる人物ではある。しかし、あまりシーダ姫を近付けさせたくはなかった。少なくとも姫に平穏な幸せを与えてくれそうなタイプではない。亡国の王太子、という立場を差し引いても。
物思いに沈んでいたのはほんの短い間であったが、返答のタイミングを外してしまうには十分な時間であった。だが、シーダは別に返答が欲しかった訳でもないらしい。如何にも嬉しそうに破顔して、王子がどんなに『素敵』かについて話し続ける。
『夢見る少女』という存在は、他者の意見を問答無用に押さえ込む、無言の圧力にも等しい迫力に満ちている。オグマは、半ば諦めを含んだ溜息を吐いた。
「…シーダ様、何か用事があったんじゃないんですか?」
多少醒めたその物言いに、シーダは我に返ったようだった。二、三度瞬きをして、ようやっと思い当たったように己の懐を探り、そこから小さな包みを大事そうに取り出した。
「そう!ずっと渡しそびれていたんだけど、オグマにこれをあげようと思って」
「…傷薬?」
それは、タリスの野山で取れる薬草からなる塗り薬だった。だがこれは、あくまでも一般庶民の使う代物であって、姫君にはかえって手に入らないものだろう。…彼女はこれを、一体何処から持ってきたのだろう。
オグマの心中の疑問に答えるような形で、シーダが言葉を繋いだ。
「リフからの預かり物。…リフを覚えている?」
「城近くの村で、ただ一人の僧侶でしたね。確か、薬師も兼ねていましたか…」
有翼馬(シフェラザード)で城を抜け出しては遊びに出掛けるシーダの、年の離れた友でもある。
「これはリフの手作りですって。自分も一緒に行きたいけど、そうしたら困ってしまう病人や怪我人がいるから行けないって。だからせめてこれを持っていってほしいって、くれたの」
シーダはそう言うと、傷薬の小瓶を大切そうに掌に包み込んだ。彼女の身を心配して持たせてくれた物に対する感謝の念をちゃんと持つ事ができる王女は、どんな大国の姫君よりもずっと素晴らしい、とオグマは思う。
彼が心から愛する小さな姫君。
「ならばそれは、シーダ様が持っているべきでしょう」
静かな声音の中の優しい響きにシーダは、褒められた子供のように嬉しそうに、照れくさそうに微笑んだ。そして、彼を見つめてこう言ったのだ。
「だってオグマが私を守ってくれるのでしょう?だったら私は怪我をしないもの。それに私を守る為に使えば、きっとリフは喜んでくれると思うし、それならこれはオグマが使うべきだわ」
それは、絶対的な信頼。ただ、彼女を見つめるばかりのオグマの力の抜けた手に小瓶を押し付け、己の手で包み込むように握らせながら、シーダは言の葉を紡ぐ。
「リフが言ってたの。一人の人間には生涯に一万一千の守護天使が付き添ってくれるんだって。だから私にも天使様のお恵みがあるだろうって。本当かしら?…でも本当じゃなくても構わないわね。私にはオグマがいれば充分だもの」
最愛の者に語るべき台詞を、当然の事のように口にする。そうだ。これは王女の甘えだ。
『オグマ、大好き。ずっと側にいてね』
彼女がほんの小さな幼い少女であった頃から、何度も繰り返された言葉。それと何ら変わる事などないではないか。なのに何故、己はこんなに動揺しているのか。
彼女はいつの間に、こんなにも娘らしく美しくなってしまったのだろう。
オグマの唯一人の少女。心から愛する小さな姫君。
その彼女に対する愛情が、己の中で微妙に変化しつつあるのだという事、それはできるだけ目を逸らしていたい、それでも認めない訳にはいかない事実として、彼の前に確かに存在していた。
END・
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