チェーン オブ サバイバルは、もともと病院の外で心臓発作を起こした人の生命を救うために必要な行動と手当て、そしてそれに関わる人たちの連携の重要性を指して使われた言葉です。
急病人の発見者、救急隊、医療スタッフがそれぞれの役割の中で取りうる最善の行動を、1つ1つの重要なリングになぞらえています。
よくよく考えてみると、水の事故でも事故現場から医療機関までの連携のステップは、心臓発作の場合と同じなのです。
違う点は事故が発生した時に事故者自身が助かるために行動できるか、できないかです。
つまり溺水の場合には窒息して酸素が欠乏するまでは意識がありますから、その間に呼吸する努力(自己保全=背浮き)をすれば自らの命を救うことが出来るのです。
水難事故におけるチェーンオブサバイバルでは、他のケース(心臓発作など)と違って自分自身が「生きるんだ!」という意志を持って努力することから始まります。
急病などで倒れた場合は、意識が無くなっている場合が多いので、自分で何とかする・・というのは無理ですよね。
しかし水難事故の場合は、事故遭遇時には意識がありますから、自分で生きるための努力をすることが可能です。
これを「自己保全」と呼び、「背浮き」を指します。
つまり、浮いて救助を待つ。
これがchain1になります。
なお、この段階で、絶対にしてはならない事として、「助けて〜」と手を振ったり身体を起こす動作があります。この瞬間に身体が水没してしまう虞があるからです。
水難事故の多くは、幾人かの目撃者が存在します。
一緒に遊んでいた子ども、向かい側を歩いていた通行人、付近で魚釣りをしていた人などです。
これら目撃した人の行動がchain2になります。
具体的には ?119番通報 ?浮き具の投げ入れ ?励まし・・などです。
1. 119番通報
近年は消防機関の整備が進み、現場到着時間は全国平均で約6分になっています。
以前は「応援を求める」ために走り回っていたという時代もありましたが、現在では携帯電話や公衆電話、付近の家にある一般加入電話を活用し、一刻も早く救助機関の出動を要請することが救命に繋がると言われています。
通報が遅れるということは、救助される時間が遅れるということであり、救命のチャンスが遠のいていく、ということになります。
2. 浮き具の投げ入れ
119番通報と共に重要なのが浮き具を持たせてあげることです。
背浮きがしっかりと出来ている人でも、浮き具を持つことで安心感が生まれることでしょう。
背浮きに自信がない人では尚更ですね。
浮き具というのは、なにも浮き輪や救命胴衣だけを指すのではなく、身近にあるペットボトルやランドセル、クーラーボックスなどを含みます。
また、ロープや長い棒があり一端を持たせることが出来るのであれば、ゆっくりと岸側に引いてきて、背浮きの補助をする程度に引いておきます。
顔が出る程度に引いておけば十分です。
決して無理をしてまで陸上に揚げることはありません。
引き揚げることにより溺者が再度転落したり、救助していた人が転落(二次災害)する場合があります。
まもなく救助隊が駆けつけてくれるのですから、そのまま励ましながら救助を待ちましょう。
3. 励まし
まもなく救助隊が来ること、そして溺者自身の頑張りがあれば助かることを告げながら、大きな声で励ましてあげましょう。
普通、10分間辛抱すれば救助隊に助けてもらえます。
4. その他
救助を円滑に進めるために、消防車や救急車のサイレンが聞こえたら手を振るなどして合図して下さい。
そして現在の状況を簡単に説明して下さい。
ただし目撃者が1人の場合で、溺者が沈みそうなときは、決して溺者から目を離さないようにして下さい。
水没したとしても、その場所を目撃しておれば救助活動が迅速に行えます。
また、水難事故により死亡する場合の最大の問題は低酸素症ですので、1分でも1秒でも長く浮いていることにより、低酸素状態は短時間になり救命率は向上します。
つまり、早期119番通報や背浮きが決して無駄にはならないということがいえます。