そこは約束の地〜Nothing SIDE


僕もうあんな大きな暗(やみ)の中だってこわくない
きっとみんなのほんとうのさいわいをさがしに行く
どこまでもどこまでも僕たち一緒に進んで行こう

銀河鉄道の夜/宮沢賢治




ゼロ。


多分、俺たちは間違えた。


何処からか、何かが狂ってしまった。




ゼロ。


世界は、俺たちだけじゃなかったよ。


たくさんの人が、『生きて』いて。


笑って、泣いて。


時に喜び、時に苦しみ。


人を憎んで、そして、『愛』していた。


みんな、同じなんだ。


人々のたくさんの感情。生きていく力。いとおしい魂。



ゼロ。



俺は、君がいない間に、たくさんの事を知ったよ。


それを君も知る事ができるように、俺は君を残して行く。


このいとおしい人々を、世界を、君が知り、

そして、愛するように。


俺は、この世界へと還る。


君にしか、この世界は救えないんだ。


だって、君は、パンドラの箱の底に残っていた最後の希望。


世界を支え、世界を呪った黒き聖母が、

全ての小暗い感情の果てに産み出した最後の子供。


暗黒の母胎(ブラックマトリクス)の中に、

確かに『愛』はあったのだから。



ねぇ、ゼロ。










…眠ってしまったの?









……ああ、俺も、眠くなってきたよ。


もう一度、ゼロの綺麗な紅い瞳を見てから、

眠りたかったんだけど。


仕方がないよね。



俺が目覚めた時、もう一度顔を見たら。


俺はぼんやりだから、またゼロの顔を忘れているかもしれない。


そうしたら、もしかしたら、

また「誰?」って訊くかもしれないけど。


どうか怒らないで。


きっと、名前を呼ぶから。


何度忘れても、きっと名前を呼ぶから。















『俺は、アベル。君は、ゼロだね』


『俺は、君を知っているよ。前に、俺たちは出会っているんだ』


『俺たちが生まれるより、前に』




『ずっと、君に、会いたかった…』
















きっと、今度出会うのは。



白も黒もない、澄んだ世界。



陽光輝く、遠い海。






神々のいない島。







END







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