月夜のスペルをもう一度おまけ


大人の知らない不思議な言葉



七条君が、最大のライバルになると思っていたんだ、本当に。
だから、彼に割り振った。伊藤君と僕との取り持ち役を。伊藤君が彼に感謝して、確かに今、伊藤君が彼にも感じている、僕に感じてくれているのと同じ種類の好意が、自然と友情にスライドするように。

多分、七条君は、一番僕に似ているから。

伊藤君を可愛がっている筆頭は、学生会々長の丹羽君と会計部々長の西園寺君だけど、あの二人は、伊藤君が嫌がる事はしようとしないし、伊藤君が決めた事を尊重するから。
彼が、僕を選んでくれたら、絶対、妙な横槍なんか入れてこないって判ってた。
それは、親友の遠藤君もまた、同じ。

中嶋君は、不確定要素ではあるけれど。
損得勘定のできる子だし、遊び相手と友人とは、きちんと分けている。丹羽君を敵にする危険を冒してまで、彼にちょっかいを出したりはしないだろう。

どこまでも素直で真っ正直な成瀬君は、それ故に敵にはならない。伊藤君は、人の気持ちを受け入れてくれる子だから。彼の好意は、そのまんま、まっすぐ受け取られて、今じゃあ、あれがキャラクターだとまで思われてるほど。
ある意味、可哀相ではあるけどね。

滝君と岩井君、篠宮君は、ある部分で共通してる。彼らからは、絶対、動かない、という点で。
それは、優しさ故なのだろうか。脆かったり、臆病だったり、潔癖だったり。彼らは、自分から手を伸ばす事を罪悪だとでも感じているかのようだ。
そんな事なんか、ないのにね。
欲しいものは、手を伸ばさなくちゃ自分のものにはならない。そう決まっているのに。

素直でも真っ正直でも、優しくもない。臆病でも潔癖でもない僕は、迷うことなく彼に手を伸ばして、そして、彼を手に入れる。
嫌だと言っても離してあげない。どこまでも甘く、優しく愛してあげる。
そうしたら、そのうちずっと僕の傍にいたいと思ってくれるようになるでしょう?
トノサマだって、初めて会った頃、いつも僕の手に爪を立てた。だけど、今では何より、僕を愛してくれているもの。

そんな気持ち。
きっと、君には、判るんだろう。
ねぇ、七条君。
君は、僕に似ているね。
多分、僕には君が理解できると思う。

だから。

チャンスだけなら、あげてもいい。君も、僕の可愛い生徒だからね。

海野は、くすりと笑みを洩らす。
それは、常の子供じみたものとは似ても似つかぬものだったのだけれど、彼のその表情を目にするのは、常のごとく、彼の相棒であるトノサマだけだ。
「何だか、面白い事になりそうだよ、トノサマ」
くすくすと笑いながら、海野は己に擦り寄るトノサマを抱き上げ、これに軽く口づけた。



END



多分、私は海野を勘違いしています。
だけど、いいんだ。楽しいから。
しかし、この話、書いてる当人にも落としどころが判らなくなってきましたよ。
どうしましょうね?<訊いてどうする








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